任天堂が本気を出すか?これからの任天堂

7月25日、週明けに任天堂の株価は18%下落とストップ安を記録した。アメリカで大ヒットしたスマートフォン用ゲームアプリ「ポケモンGO」の大ヒットを受けて株価が急上昇していた所、任天堂は「ポケモンGOが今期の業績に与える影響は限定的」という冷や水のようなリリースを公表したからだ。

モバイル分野に出遅れたと見られていた任天堂に降ってわいたようなポケモンGOの大ヒット、株価の急上昇、そしてそれをまるで静観するかのようなリリース、これら一連の出来事はどのように捉えれば良いのか。

 

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■任天堂がポケモンGOの大ヒットでも冷静な理由はなぜ。

連日ポケモンGO騒動とでもいうような報道が続いているが、それに合わせたように任天堂の株価は急騰していた。ここ1年ほど1.5万円ほどで推移していた株価は一時3万円を超え、時価総額は4兆円を突破した。

これは米国で大ヒットしたポケモンGOに対する期待の表れである事は間違いなかった。今後ポケモンGOが日本で、そして世界中で配信が開始されれば利益が急増するに違いないと考えた投資家の買いが殺到した。

しかし、ポケモンGOはそもそも任天堂が作ったゲームでは無いという。7月22日に出された任天堂の公式リリースにおいて、ポケモンGOはアメリカのナイアンティック社が開発・配信を行っていること、任天堂はナイアンティック社にポケモンのライセンスを提供する「ポケモン株式会社」の株を一部(32%)保有する立場に過ぎないこと、そしてそれらの事情から業績に与える影響は限定的、といった内容を伝えている。

加えて、任天堂から販売を予定しているポケモンGOプラスという周辺機器もすでに4月に公表した業績予想に織り込み済みであるため、今の時点では業績予想の変更も無いという。

社会的なブームと言える程の大ヒットでありながら、冷静を通り越してそっけないほどの対応を見ていると「任天堂は儲けるつもりがあるのだろうか?」と、なんとも不思議な印象を受けてしまう。しかし、そもそも任天堂のスマートフォンへの対応を見ていればこの態度も極めて納得いくもので、一貫した姿勢であることも分かる。

 

 

■任天堂はあえてスマホに手を出してこなかった。

任天堂は昨年Miitomoというアプリを出すまで、スマートフォンへの対応をほとんどしていなかった。少なくとも自社の主力となるゲームをスマートフォンで遊ぶためのサービスは提供していなかった。Miitomoも、アバタ―と呼ばれる自分の分身を作成し、それを介して他者とコミュニケーションを取る、といった一般的なゲームからは程遠い内容だ。

さて、これはどういうことなのか。一言でいえば任天堂にとってスマートフォンは主戦場ではないということだ。マリオやゼルダ、ポケモンといった任天堂を代表するようなゲームをスマートフォン向けに開発すればヒットすることは間違いないだろう。しかしそれによって得られる収益は、従来のプラットフォーマーとしての立場から大きく外れたものだ。

プラットフォーマーとはスマートフォンの分野で言えばグーグルやアップルのような、この業界はこの会社が無かったら成り立たない、仕組みを作って管理する側、といった意味だ。

任天堂は自社が作ったゲーム機では、ゲームの内容はもちろん、その会社のソフトを自社のハードで出させるかどうかまで決めることができる圧倒的な強者としての立場を持つ。これがプラットフォーマーとしての強みだ。しかしスマートフォンの分野では、現在グーグルのアンドロイドとアップルのIOS(アイフォン)が圧倒的なシェアを持つ。つまり、スマートフォンでゲームを作ろうとすればグーグルとアップルが支配する世界で、他のゲーム会社やコンテンツメーカーと同じ立場となり、ワンオブゼムでしかない。

分かりやすい部分で言えば、グーグルプレイやアップストアでは、アプリの売上や課金の30%を取られてしまう。ゲーム内容に問題があると見られれば容赦なく配信を停止されてしまう。30%という手数料もある日突然40%とか50%に変えられてしまえば、30%を前提に開発を進めていたゲームは収益が立たずにとん挫してしまうかもしれない。

 

 

■任天堂はプラットフォーマーの立場を維持できるか。

プラットフォーマーでなければ、こういった何が起きるか分からないリスクを全て受け入れることになる。加えて、スマートフォンで任天堂のゲームが出来るとなれば任天堂のハードをあえて買う理由が無くなってしまう。ハードの売上が落ちればそこでソフトを作る会社も減ってしまう。どんなにゲームソフトがヒットしても、ハードの台数以上にソフトは売れないからだ。つまり任天堂がスマートフォンに注力すればするほど、プラットフォーマーとしての立場を危うくする。

例えば大ヒットしているポケモンGOであっても、もしこれが任天堂のゲーム機でしか実現出来ないゲームであればわざわざスマートフォンで出ることは無かっただろう。位置情報をフル活用したこのゲームはスマートフォンでなければ実現出来ず、だからこそ任天堂も外部の企業にライセンスという形で自社と競合しかねないゲームの開発を認めたのだろう。

通常、ライセンス商品は自社の本業ではない商品を他社に作らせて利益を得るために利用する。任天堂ならばキャラクターを利用したお菓子やオモチャなどがそれにあたるだろう。もしポケモンを利用したゲームを作りたい、という話が持ち込まれればまず断られるのが普通だ。

今回のポケモンGOもスンナリ話が通ったとは考えにくい。任天堂にとって最も収益を生むコンテンツの一つであるポケモンのゲームをスマートフォンで出して良いものか、喧々諤々の議論があっただろう。ポケモンGOは確かに良い企画だが、スマホではなくアンドロイドを組み込んだ自社のゲーム機を作ってそこから出したらどうか?と言った話し合いまでなされていたとしても何ら不思議なことでは無い。

結果的に自社のゲーム機では実現出来ない世界観があり、ポケモンGOでポケモンを知った人が任天堂のゲームを買ってくれるのならアリなのではないか、という結論に至ったと思われる。自社のハードで出来る内容ならば当然ライセンスの許可を出すわけも無かったに違いない。そこで許可を出すのなら他のゲームメーカーと同様に、とっくの昔にスマートフォン向けに任天堂のソフトを供給していただろう。

もし今後、スマートフォン向けに次々とタイトルをリリースするときが来るとしたら、それは任天堂のゲーム機が全く売れず、セガのようにハードの販売をやめ、プラットフォーマーからいちソフトメーカーへと方向転換をした時だろう。

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■任天堂にとって主力事業は自社で開発するゲーム機とソフト販売。

任天堂の株主総会では主力事業に関する以下のようなやり取りが株主との間でなされている。

「世の中の多くのライセンスビジネスにあるような「ライセンス収入の最大化を狙うIP(知的財産権)活用」ではなく、「任天堂のゲームで遊んでいただける人の数を最大化し、任天堂IPの価値が中長期的に積み上がっていくための任天堂IPの積極活用」だとご理解いただくと、任天堂がこれから行うことや、一見やればよさそうに思えるのにやらないことの理由が正しくご理解いただけるのではないかと思います。スマートデバイスゲームも同じように位置付けられていくと考えていただくと、先ほどお話ししたこととつながるのではないかと思い、補足させていただきました。

※()は筆者の補足。

出典:任天堂 2015年3月期 決算説明会 質疑応答 2015/05/08

この発言はシンプルに言えばライセンスで儲けるためにライセンス事業を行うのでなく、主力事業を伸ばすためにライセンス事業を行う、ということだ。ポケモンGOも同様の位置づけだろう。やれば良さそうに思えるのにやらないこと、というのはスマートフォン向けのゲーム開発を指している。

任天堂のそっけないほど冷めたリリースから分かることは、得られる利益が多い・少ないという部分ではなく、今回の大騒動も極論で言えば「ライセンス先の企業でピカチュウのぬいぐるみがバカ売れした」というレベルの話と大差がなく、多くの投資家と違い任天堂にとって重要なことは長い目で見て今後自社のハードとソフトがどれだけ売れるか、という主力事業にしか興味が無いということだ。

ポケモンGOが「ドラクエGO」とか「ファイナルファンタジーGO」ならもっと売れる、と言ったコメントもチラホラと見かけたが、こういった話が出てしまう時点でポケモンGOのヒットは任天堂がコントロールできない世界の出来事であることをハッキリと示していると言えるだろう。

今後は位置情報を利用したゲームが多数リリースされ大ヒットを納めるかもしれないが、それによって任天堂は1円も利益を得ることは出来ない。元々は「持ち運べる電話機」でしかなかった携帯電話が、ネットとつながり、端末の高性能化で複雑なアプリが動くようになり、カメラ・パソコン・携帯音楽機と何でも取り込んでしまい、ゲーム業界もすでに一部が飲み込まれていることをポケモンGOの大ヒットは改めて示した。

つまりポケモンGOは任天堂にとって大成功であると同時にスマートフォンへの敗北でもあるわけだ。マクドナルドがポケモンGOを利用した集客に関連して、広告への利用がウンヌンと一部で騒がれているが、任天堂が広告事業を大々的に手掛ける事は考えられない。理由は既に書いた通り、それによって自社のコア事業であるゲーム事業への寄与が全くと言っていいほど見込めないからだ。

マクドナルドの広告はポケモンGOのさらにオマケのようなビジネスでしかなく、目的は利益の獲得ではなく、スマホのゲームはやるけどゲーム機はもう買わなくなってしまった、というようなマクドナルドを利用する顧客へのアプローチであり、少なくともゲーム体験を阻害するような過度な広告を任天堂が許可する事は考えられない。

 

■ポケモンGOのヒットで儲けたいなら。

<ポケモンGOの売り上げ予想(年間)>

日本1500億円、米国1000億円、欧州1000億円、その他500億円 ➡ 4000億円

<ポケモンGOで利益を得る企業>

①NIANTIC(開発・販売:米国非上場)

ポケモンGO売り上げ利益の約50%、マクドナルド広告宣伝収入全額、課金収入35%?

②(株)ポケモン(ポケモンのライセンス・任天堂の持ち分法適用会社・NIANTICへ出資)

製造・ライセンス収入・開発協力による取り分

NIANTICからの配当収入、課金収入35%?

   

③任天堂(株式会社ポケモン及びNIANTICへ出資)

連結対象(株)ポケモン、「ポケモンGO Plus」製造販売➡売り上げ予想1750億円(年)

④グーグル(NIANTICへ出資・プラットフォーム提供)課金収入 15%

⑤アップル(プラットフォーム提供)課金収入 15%

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[ウォールストリートジャーナル]

JPモルガンのアナリスト、森はるか氏は、ゲームの売り上げのうち、アプリストアを運営するアップルないしグーグルの取り分を除外したゲーム収入をナイアンティックとポケモンが分け合うと想定している。森氏はアプリの月間収入が300億円の場合、通年の任天堂の利益が250億円増える公算が大きいと予測している。付属品として販売されるPokémon Go Plusが5000万個売れれば、ほぼ同程度の利益がかさ上げされるとみているという。

前年度(16年3月期)の任天堂の純利益が165億円に止まっていたことを考えると、これは大きい。

同社自身の今年度(来年3月まで)の純利益見通しは350億円だが、これはポケモンGOが大ヒットする前に出された予測だ。

モルガン・スタンレーMUFG証券の長坂美亜氏は、任天堂の利益を相当大幅に押し上げるためには、今回のゲームが爆発的な人気を保つ必要があるほか、何百万人ものユーザーが毎月ゲームのアイテムにかなりの額を払うことも必要になると警告する。

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つまり、任天堂の2017年3月期の純利益は、当初予想の165億円から500億円以上

上振れする可能性があると指摘している訳です。

 

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